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- 空気が危ない?- 光合成の森 金津創作の森 |
![]() 風 車 2011
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![]() 高さ9.5m、幅2.6m コンクリート・ポール、鉄ストラクチャー、車輪 |
平川滋子個展 ‐空気が危ない?光合成の森
金津創作の森(福井県あわら市金津)企画 2011年10月22日から12月11日まで <展覧会の概要> 「空気が危ない?」プロジェクトは、初めてエコロジーを意識したプロジェクトとして長いリサーチを経た2004年 1月に構想したものである。人間社会の大気汚染が原因でヨーロッパの森林の再生能力が低下し始めている兆候について、欧州連合が「枯死」と針葉樹の「脱 色」という植物の症状に表れていることを伝える報告書で公表したことから、大きなインスピレーションを受けた。 2004年1月当初から、森林の窮状を視覚的に訴えつつ脱色する植物に色をつけなおす作品「光合成の木」、「光合成の木」が作り出す「酸素分子」、そして 光合成を促進する太陽光子の電気エネルギー的な働きを象徴する「風車(最初の命名は、空気製造機)」の三つのエレメントが要となって「空気が危ない?」プ ロジェクトを構成している。 作品「光合成の木」は、構想から2年半後の2006年秋、プロジェクトとは単独にアルジャントゥイユ市の企画で初めて実現した。その後、ニューヨークや東 京でも発表したが、「光合成の木」は展覧会ごとにその場の環境とその時節の太陽の影響を受けて、それぞれ違った生き方をしている。 太陽光線に当たると色を付ける人工の特殊ピグメント(フォトクロミック)を練りこんだプラスチック円盤を数千枚枝に取り付けた「光合成の木」は、太陽が出 ると紫色になり、太陽が沈む夜には色が消えてプラスチックは白に戻る。太陽の加減によって植物が働くようすを円盤の色の変化で視覚化する木である。ピグメ ントの反応は早く、また微妙で、直射日光が当たる部分は鮮やかな紫色になり、空を雲が覆うと淡いピンク色になる。また他の円盤や木の枝などが影を落す部分 は、日光がさえぎられてピグメントが反応しないので白いままという、一つの円盤の中でもまた一つの枝に取り付けられた円盤のあいだでもそれぞれ豊富なニュ アンスをみせてくれる。白くなった円盤をつけた夜の「光合成の木」はまた、葉緑素を失って脱色し終には枯死に至る木のゴースト・ツリーといった様相をメタ フォリックにみせる木といえる。 今 まで一度も実現にこぎつけられなかった最後のエレメント、「風車」。 金津創作の森の個展は、プロジェクトの構想以来はじめて、三つのエレメントを制作し、プロジェクトの総括的な展示を展開する過去最大規模の個展となっ た。 最後のエレメント「風車」を加え、構想当初の三つの大柱(「光合 成の木」、「酸素分子」、「風車(空気製造機)」)がようやく出揃い、プロジェクトの完全な姿が敷地内に点在することになった。「風車」は構想から7年半 と いう時間の趨勢と創作の森の環境との対話の中で、最初のイメージからは大きく変化した。植物の葉緑素(緑のピグメント)に電気的刺激を与えて光合成をさ せ、グルコーズや酸素を作り出すように仕向ける太陽の光子の動きを象徴する線的な躍動をかたちに宿し、創作の森の環境との対話のなかで大きさや色を選定し た。色は、光合成を機能させる葉緑素の緑である。(この作品は、2015年まで保存され一般公開され続ける。) 金津創作の森には、光合成の木が3本、酸素分子が3個配置されており、「光合成の木」と「酸素分 子」との関係を密接にする形で、うち二つの酸素分子は一本ずつ光合成の木を内包している。 酸素分子の盛り土の中には、菜種とアマランサスを播種した。菜種は、栄養が偏った土壌を正常化する力を持ち、菜種を植 えると次に植える作物がよりよく育つので輪作に用いられるという。植物の土壌を正常化する力を利用する人間の知恵をシンボル化して、菜種を播種した。ま た、アマランサスは空気正常化の植物の一つともいわれるが、なによりその語源である「不死の花」に人間の自然に対する驚きと期待を感じて選んだものであ る。 酸素分子に雨の降る前日を選んで播種した菜種は、一週間もすると発芽しはじめた。11月に発芽した菜種は芽の状態のまま雪の下で冬を越して4月から5月に かけてが開花の時期となる予定だ。 ≪野外展示≫ 作品:
- 光合成の木* 3本の木、フォトクロミック・ピグメントを混ぜた円盤3000枚 - 酸素分子* 全長30mから20mの酸素分子構造型の盛り土3個、菜種、アマランサス - 風車 高さ9.5m、コンクリート・ポール、鉄ストラクチャー、車輪 * ほとんどの作品が2012年春まで観覧可能。風車は2015年まで. ≪アート・コア・ミュージ アム - 1≫ アート・コア美術館の室内インスタレーション「酸素分子、空気が 危ない?」は、ちょうど野 外の酸素分子の天地を逆にし、布で酸素分子型を作り天井に貼り付け、そこから酸素原子の透明球体を吊るしたかたちである。床には菜種を10kg置いた。野 外の自然のサーキュレーションのなかにある菜種とは違い、土から切り離されて発芽をしない菜種は絶縁の象徴である。 「酸素分子、空気が危ない?」インスタレーションの隣室はビデオ・インスタレーション。ブルターニュの池で行ったインスタレーションの記録「植物プランク トン」(11分、ブルターニュ 2012)、および、「アペル・デール、空気の誘引」(16分、ルーアン 2010-2011)の二本を上映。 ビデオの水上インスタレーション「植物プランクトン」は、地球上の酸素の約60%を供給するといわれる光合成をする川や海の海草やプランクトンにインスピ レーションを受けて2011年5月ブルターニュで制作したものである。形は、地球の最初の酸素発生型光合成生物と考えられている植物プランクトンの一種、 シアノバクテリア(藍色細菌)をベースに展開したもので、プラスチックの比重0.9を利用し、ちょうど植物プランクトンが生息する水と空気 のインターフェイスといわれる水面部分に浮かばせることができた。貴重な水上インスタレーションの制作ドキュメンタリーフィルムである。 「アペル・デール、空気の誘引」は、2010年ルーアン市の企画で行われた「ルーアン・アンプレッショネ」展の際に植物公園で制作したインスタレーション 「アペル・デール」の制作ドキュメンタリーフィルムである。インスタレーションは、ルーアン植物公園の入りから約200mの範囲を利用したもので、≪空気 が危ない?≫プロジェクトの二要素、「光合成の木」と「酸素分子」で構成されている。(S.H.) 作品:
- インスタレーション<酸素分子、空気が危ない> インスタレーション: 21m x 4.5m x 9.5m、ミクスト・メディア ‐ ビデオ・インスタレーション 「植物プランクトン」 (11分) 2011 「空気の誘引」ドキュメンタリーフィルム(16分) ≪ギャラリー≫ 金津創作の森の個展は、2011年3月11日の東北大震災と福島第一原発事故の起きたあとでもあり、環境アートの 観点から、「空気が危ない?」プロジェクトを通して、この厳しい現実へのアプローチは欠かせないものとなった。 そこで、プロジェクトの大本の展示に加え、アート・コア美術館のギャラリー部分を利用して、二つのインスタレーションを試みることにした。 一つは「外からの目」。福島原発事故をモニタリングして毎日新しいニュースをアップするフランスを中心とした欧州のブログを12個選択し、一番新しい内容 をプリントアウトして 6mの壁に貼り付けたもので、事故から7か月後(展覧会当日)も真剣に原子力発電とその事故について科学的に真実を見極めようとする、日本からはなかなか 見えない日本に対する「外の目」を紹介した。これは、「空気が危ない?」プロジェクトが、欧州各地に設けられた5000箇所の空気観測所のモニタリングを もとに集計した報告書からインスピレーションを得たことから発想したもので、福島原発事故をめぐる第三者の目を紹介することで、科学的な姿勢で行われる 「モニタリング」のようすを浮き彫りにし、真実を求める外の目を紹介しつつ、われわれを取り巻く見えない壁を取り払うこころみをするコーナーである。 金津創作の森は、プロジェクトの総合展を実現する舞台として重要な意味を持つ。「外の目」を導入することから、こんどは「外への発信」へ。さらなる発信を 求めてインター ネットを展示に導入することを決めた。2010年暮れに私の作品の構想を引き受けた金津創作の森は、2011年8月初旬から作家のプロジェクトプランに 従って作品の制作に取り掛かっている。日本の金津創作の森とパリの作家との綿密な連携が、作家が日本に来てレジデンスに入り作品が完成するまで、ほとんど 毎日のよう に続いた。そうした数ヶ月に渡る疎通の賜物である作品が完成するまでのビデオを創作の森のキュレーターや作家が撮り続け、逐次編集してインターネットにオ ンラインした。制作開始から作品完成、また展覧会が終了しても存在している作品はビデオを撮る人がいればその人のビデオをオンラインして行き、その後の展 開までインターネットにアクセスさえすれば見たい段階を好きなときに見ることができるように段取りを組んだ。現在オンラインされているビデオクリップは 22本を数える。展覧会会場では、多くの作品とはまた別にギャラリーに置かれた一台のノートPCがインターネットによる世界からの不特定多数のアクセスを 暗示する。 作品:
- 「外からの目」(福島第一原発事故に関するヨーロッパのブログ紹介) - アマランサス - 作品誕生とその経過を撮影したビデオクリップ22本 Youtube: 金津創作の森の<空気が危ない?>プロジェクト作品、経過ビデオ * *Youtubeにオンラインしたビデオはいつでもアクセス可能。 今年の菜種の開花時期まで、一般参観者ののビデオ投稿を受付。 |
創作の森の個展は、2004年に構想を立て
た<空気が危ない?>プロジェクトの作品が全部実現し、いままでの最大級の個展となった。
特に<風車>は創作の森の環境から生まれた形となって今回始めて制作され、このまま2015年まで設置の予定。 |
酸素分子 |
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酸素分子型盛り土3箇所 (30m から 20m、菜種、アマランサス、土、木、光合成の木、松の苗) |
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酸素分子、空気が危 ない? アート・コア・ミュージアム |
![]() インスタレーション 大きさ 21m x 4.5m x 9.5m、透明球体、特殊繊維、菜種 |
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光合成の木 |
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入口の光合成の木 |
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光合成の木 (コナラ) |
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光合成の木(ケヤキ) |
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カタログ:
ART DOCUMENT, Shigeko Hirakawa "空気が危ない? 光合成の森" (1000 円) 金津創作の森 福井県あわら市宮谷57-2-19 919-0806 Japan http://sosaku.jp TEL:+81 (0)776-73-7800 FAX:+81 (0)776-73-7805 |
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